夢中なことがあったり、叶えたい目標があったり、誰にも真似できない自分だけの“何か”を持ってる人ってかっこいい。シティボーイってどんな人のことを言うの!? という問いの正解は決して一つではないけど、彼らが共通して持っているのは、そういう自分の興味に対する強いこだわりなのではないでしょうか。
このブログでは、毎回1人のシティボーイに密着取材。彼らのホームタウンを巡りながら、シティボーイの実態を調査していきます。
今回のシティボーイは市ケ尾に住む松本朝さん。松本さんは横浜市内にあるアメリカ南部料理の老舗レストランで学生時代から卒業後の今も修行中。今年の年末には友人と店をオープンする予定で、日々料理の勉強と開店準備に大忙し。松本さんの手料理をいただきながら、夢に向かって頑張る彼の素顔に迫ります。松本さんのごはん、本当においしかった!
『自宅でホームパーティ』
この日は、料理の練習を兼ね親しい友人を招いてホームパーティ。
「今日は事前にスモークしておいたチキンと海老でアヒージョとトルティーヤを作ります。このスモークは冷燻といって、スモークウッドの周りに氷をおいて低温で燻製して香りだけつけたものです」
燻製に使う機械は松本さんがシェフを目指す前から家にあって、ご両親の友人が作ってくれたもの。
松本さんが料理に目覚めたのはごく自然なことだったのかもしれない。
『料理遍歴』
「小学校の頃から母親の手伝いでよくキッチンにいました。母も料理が好きな人で、いつも手の込んだ料理を作ってくれました。燻製の機械とかビビンバ用の石のどんぶりが家族の人数分あったり……。小さい頃から食べるのも、何かを作るのも好きで、気づいたら料理が好きになっていましたね。今修行中のレストランも近所にあって小さい時から通ってたんです」
「学生時代は今働いているレストランの前にもシーフードの店とイタリアンの店でバイトをしてました。今のところで働き始めたのは4年前です。よく『アメリカ南部料理って何?』と聞かれるんですが、ケイジャンチキンやジャンバラヤといったものがそうですね。フランス領だったので、アメリカ南部料理はすべての料理の基本と言われるフランス料理の影響を受けて、独特な発展をしてきたんです。それもあって、いくつかの要素を組み合わせた料理が好きなのかもしれません」
話しながらも手際よく具材をカットする松本さん。でもにんにくの芽、取らなくて大丈夫なんでしょうか……。
「大丈夫です!(笑) 南部料理はアクもとりません。すべてそのままです!」
失礼いたしました。
『料理が完成!』
そうこうしている内に腹ぺこのお友達が到着。付き合いは長いけど松本さんの料理は食べたことがないそうで……期待が高まります。
まず一品目はスモークシュリンプのアヒージョ。
「アヒージョは普通生の魚介を使うんですが、今日はスモークしたシュリンプなので皮ごといけます! ブラウンマッシュルームもポイントですね。ちょっと風味が違うんです」
二品目はトルティーヤ。野菜が乗った赤い皿は南部料理に合わせてペンドルトンのもの。かわいい!
「スパイスをまぶしたスモークチキンに、野菜とチーズ、ソースをお好みで! 緑のソースはチミチュリソースです。以前ブラジルで食べた味を研究して再現しました。あとはマンゴーを入れたサルサソースもおいしいですよ! どっちも昨日から仕込んだ自信作です」
友人も「うまい! 本当に料理勉強してたんだな」と驚きの様子。
『スパイスとハーブが好き!』
料理の面白さと言っても色々。中でも松本さんはスパイスとハーブを使った料理に目がありません。
「安い食材もおいしく変身させられるのがスパイスとハーブのすごいところですね。学生時代、タイやカンボジア、ブラジルに旅行で行って、そこで食べた味を再現したくて、現地でスパイスを買っているうちに集まってきました。他にも留学中の弟に一時帰国するタイミングで買ってきてもらったり、お土産でもらったりすることもあるんです。アメリカで買ったクミンと、弟が買ってきてくれたPAPOU’Sの地中海の塩を使った『Secret Spice』がお気に入りです。とくに『Secret Spice』は日本では手に入らなくて……。こういうものは原材料を見て、自分で配分を研究しながら再現しています!」
『レシピ本』
料理を勉強する松本さんにとって料理の本も欠かせないものの一つ。
「前から集めてはいたんですが、ちゃんと読んで勉強するようになったのはここ2年くらいです。載っているレシピを試すだけじゃなくて、読みながら『違う国の料理をミックスできないかな』と組み合わせの可能性も考えています。修行先のまかない料理は率先して作って、色んなジャンルを組み合わせた創作料理を試作しています。プロの人の反応を知れる大切な機会ですね。一緒に働いてる人たちだから、食べ物の好き嫌いも知ってる。そういう条件も考えながら挑戦しつつも喜んでもらえる料理を作るのが楽しいです」
『趣味』
レストランでの仕事、自分の店の準備、レシピの研究……と忙しい毎日だけど趣味もたくさん持っている松本さん。
「6年前にお金を貯めて買った70年代のトライアンフです。これはイギリスのバイクなんですが、修理を繰り返しながらヘルズエンジェルスっぽく改造してるんです。あとペットの蛇にも夢中です。この種類はもともと黒い色なんですが、突然変異で肌色なんです。今日は天気がいいので蛇も喜んでますね。逃がしたら、隣の家の女の子に殺すと言われてますが」
他に楽器を演奏するのも得意な松本さん。色んなことに興味をもつ好奇心は、スパイスとハーブを組み合わせて新しい料理を生む想像力にもつながっているのかも。
『これから開くお店のこと』
場所を移して、『Lucy's Bakery』へ。ここは修行しているレストランの姉妹店。南部料理の定番スイーツ、ピーカンパイを食べながら今準備をしている店の話に。
「今年の11月に学生時代の友達と2人で店を出す予定です。ずっと自分の店を出したいと思ってたけど、友達が声をかけてくれなかったらこんなに早く踏み切ることはできませんでした。今はとにかく色んな店に食べに行って、料理はもちろん、店の雰囲気や接客のことを勉強してます。多国籍料理と創作料理の店にしたいですね。タイのチェンマイで食べた汁なしフォーと燻製を使った料理、あとプレッツェルに具を挟んだバーガーはぜひ出したいです。プレッツェルは特別な薬品を使って作るので資格が必要で、その勉強もしないとですね。店を出す前にまた旅に出て料理の研究もしたいけど、間に合うかな……」
料理以外にバイクや旅行、音楽などにも熱中する松本さん。
料理の世界は上を見たらキリがないけど、上だけでなく、広い視野を持って色んな世界に飛び込む松本さんだからこそ、そのうち彼にしか作れない料理ができるかもしれない。
蛇を使った料理だけは食べたくないけどね。
取材/文/飯野僚子 写真/宮本賢