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第30回 芳賀陽平(27)映画監督 | ブログ | マガジンワールド

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何となく“今っぽい”だけじゃ、スタイルを持っているとは言えない。世の中の大きな流れにうまく乗っかろうとするのではなく、自分の価値観を信じて行動し続けるのが真のシティボーイ。このブログでは、そんな彼らのホームタウンを一緒に回りながら、「彼らが何を考え、何に迷い、何を面白いと思っているのか」を聞いていきます。

今月のシティボーイは、映画監督の芳賀陽平君。昨年、大柴裕介主演の自身初監督作『Tropical』を中目黒のギャラリー『VOILLD』で上映。上映後のトークイベントには本誌でも何度か出ていた青柳文子ちゃんが駆けつけるなど、インディーズ映画界では徐々に注目を集めている。映画の他にも、バンドやラッパーのプロモーションビデオを監督したり、最近はファッションブランドのショーの舞台裏を撮ったりして、日々の生活費を稼いでいるんだって。そんな彼のホームタウンは、菊名駅から横浜線でひと駅のところにある大口。当日は大口駅で待ち合わせ。「お腹空いていますよね? それならとっておきのお店があります」と、『Tropical』のワンシーンにも登場する中華料理屋さん『萬新楼』に連れていってくれた。
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「ここは子供の頃から通っています。広い座敷があって何時間でも居られる。1番のオススメは映画の中にも出てくる排骨飯。実際にここで撮影した時、本番前にみんなでお昼を食べたんですが、全員が排骨飯を頼むもんだから、店主に『おーい、本番で使う排骨飯なくなっちゃうけれどいいのかー』と言われて『ダメダメ!』と(笑)。」
確かに、お酒がきいていて美味い! 失礼だけど “いなたい”中華料理屋で期待するレベルをはるかに超えている。
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『Tropical』の中でも、大柴裕介さん演じる道夫の前に排骨飯が出される場面が。
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一緒に頼んだ餃子も肉汁たっぷり系の逸品!
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排骨飯は食べたら眠くなるほどの量で850円にも関わらず、若鶏の唐揚げと肉ダンゴはそれぞれ2500円。この値段設定のミステリーがこのお店の魅力をより深いものにしている。
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料理のキャッチコピーもさり気なくかわいい。野菜嫌いの子供がいるファミリーが対象なのだろうか。
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排骨飯をかきこみながら、早速話を聞いてみた。芳賀君はそもそもなぜ映画の世界へ?
「『ドラえもん』、『ラッシュアワー』、『害虫』や『スウィート・シックスティーン』など、自分を映画に興味を持った作品はいくつかあるのですが、中でも『アメリカン・グラフィティ』は特別でした。高校2年生の頃、ワシントン州のヤキマっていうど田舎に短期留学していたこともあって、日常的なアメリカの風景に好きだったんです。当時は、旅で訪れたいというよりも、そこで現地人と同じように暮らしてみたいと思っていましたね。自分で映画を撮ろうと思ったきっかけは、DVDに収録されているメイキング映像を観ていて、毎日違うロケーションで色んな人たちが入り混じりながら作品を撮っている“お祭り感”が楽しそうだったから」

『アメリカン・グラフィティ』といえば、今やスター監督のジョージ・ルーカスが駆け出しの頃に限られた予算で作ったDIY感満載の青春ムービー。確かにあれを観ると自分もタイムスリップしてそこに自然と参加したくなる。それで映画をちゃんと勉強してみようと?
「そうですね。高校はそこそこの進学校に通っていたんですが、先生やまわりの奴が話す“良い大学に入って、良い会社に就職する”とい目標がどうもバカらしく思えてきて。実際にそれで幸せになっている人が、少なくとも僕のまわりにはいなかったんです。学校もサボリ気味になっていたから、ある日先生から『お前は何がしたいんだ』と問いつめられた。『映画が撮りたいです』と答えたら、『周防(正行)監督や是枝(裕和)監督だって大学出ているじゃないか』と妙に説得力のあることを言われたので(笑)、とりあえず東京造形大学の映画コースを受けることにしました」
そこで意固地にならず、まわりの意見を聞き入れるあたり、芳賀君の素直さがよく表れている。
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「その後、無事に東京造形大学に受かったんですが、いざ映画を撮ろうとなったところで、『なぜその映画が撮りたいの?』とまわりに詰められて。そんなこと聞かれたって、撮りたいから撮るとしか答えようがない。映画を撮ることがどういうことなのか、よくわからなくなって、今度は音楽好きとつるみ出すように。夜は『オース』(青山)とかのクラブに通って、時々イベントのVJもやっていました。そもそも、日本でも映画だけで食べている人は一握りだし、僕もそれだけを目指しているわけではなかった。その頃には、映像や写真に関わることなら、色んなジャンルを横断して仕事がしたいと思っていました」
この言葉、けっして冷めているわけではない。実際に、彼は26歳という若さで映画を一本撮っている。だが、大学でも思いばかりが先行して行動が伴わない人が多い中、彼は淡々と実行に移すことが何より重要だと考えていた。お腹もいっぱいのなったところで、話の続きは移動してから聞くことに。
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次のお店へ向かう道中、『Tropical』の冒頭で登場する大口の住宅街に立ち寄った。「ここらへんは坂が多くて、写真や映像に収めると不思議なインパクトが出る」と芳賀君は話す(※下写真が映画の冒頭シーン)。
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ふと足元に目を向けると、かなり年季の入ったレザーシューズが。これは18歳の時に知り合いから譲り受けたイタリアの〈グイディ〉で、もう8年も履き続けているという。本人は〈グイディ〉がどういうブランドなのか知らないらしい。

車で大口から元町まで移動して、次に紹介してくれたのが、元町通り沿いの2階に入る喫茶店『無』。芳賀君はオーナーと気軽に挨拶を交わすほどの常連で、「いつも半日くらいダラダラしてしまうんだけど、元町通りのど真ん中という立地に意外性があっていい」とのこと。
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見よ! 「コーヒーを凍らせた氷が溶ける=自動おかわり」という夢のような冷コー。放っておいたらいつまで経っても溶けないから、一緒に出てくるお水をかけながら溶かすのがポイント。
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30代男性のダラダラと続く憂鬱な日々を描いた『Tropical』は、まだネット上にアップされていないから、今のところ観ることはできない(上映イベントも未定)。せめて“芳賀監督”の映画的ルーツを知るために、自分を形成している3本を聞いてみた。
「1本は最初に話した『アメリカン・グラフィティ』。2本目はレオス・カラックスの『汚れた血』。3本目が北野武の『ソナチネ』ですね。特に、レオス・カラックスと北野武の映画に共通しているのは、異常な緊張感があって、それが緩む瞬間がなかなか訪れないところ。死の気配に満ちあふれていて、人もそっけなく死んでいく。でも、ただドライなだけじゃなくて、“悲しい”っていう情感が確実に画面の中に存在しているんです。僕が影響されているかどうかはわからないけれど、青みがかっている映像も含めて、ずっと好きなテンションですね」
ちなみに、最近観て良かったのは市川準監督の『東京夜曲』とホン・サンス監督の『自由が丘で』だそう。どちらも、すでにDVDになっているから、ぜひ観てみて。
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映画をインディペンデントで作るのはけっして簡単じゃない。楽曲やZINEよりも莫大なお金と時間がかかるし、上映する場所も自分たちで作る必要がある。だからこそ、工夫のしがいもある。
「自分たちで開催する上映会には、映画以外の要素も積極的に取り入れるようにしています。たとえば、バンドを呼んで演奏してもらったり、トークイベントを行ったり。自分のまわりにいるような映画好きの人以外にもふらっと来てほしいので。映画も観る側に想像させるような内容にしていて、はっきり説明していない部分が多い。映画というエンターテイメントをより外に押し広げたいんですよね」
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インディーズの音楽やZINEを読む習慣は広まっている気がするけれど、映画は正直まだまだ。だけど、芳賀君はそんな状況に風穴を開ける存在になるかもしれない。今年春には自身2作目となる短編映画の撮影を控えているそう。上映イベントなどの情報は本人の公式インスタグラムからチェック!
@yoheipeta

http://blog.magazineworld.jp/popeyeblog/28685/


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