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第2回 流浪堂 二見 彰さん

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profile:ふたみ・あきら。音楽一筋の人生だったが、資金集めのために始めた古書店でのバイトがきっかけとなり、2000年自身のお店、『流浪堂』をオープン。○東京都目黒区鷹番3-6-9-103 ☎03−3792−3082 営業時間 平日12:00〜24:00 日祝日11:00〜23:00
 
 
近頃、東京では代官山の蔦屋書店のように、トークショーやカフェサービスなども楽しめる本屋さんや、ZINEだけを取り扱ってる本屋さんなど、それぞれテーマを持ち、新しい本の楽しみ方を提案する本屋さんができています。このブログでは、かけだしライターの私、宮本 賢がそんな本屋さん訪れて取材。本を読むこと、探すこと(=Diggin’ Books)のおもしろさを教えてもらおうという企画です。インディペンデントでかっこいい本屋さんにいる「本のスペシャリスト」に会いに行ってきます。「Diggin’ Books」毎月更新!
 
 

 
今回は、学芸大学で13年間続く『流浪堂』を取材。雑誌はもちろん、文庫やアートブックまで幅広いラインナップで地元に愛される古本屋さんに、本の魅力を伺ってきました。
 
 
本屋さんは昔からやろうとしていたんですか?
 
「いや、まったく違うんです。高校生から26歳くらいまでずっとバンドをやっていて音楽中心だったから、古本屋さんという仕事があることも知らないくらいでしたね」

そう言われてみると、普通の本屋さんっていう雰囲気ではないですよね(笑)
 
「旅行をするための資金集めを考えていたときに、バンドの先輩に誘われて古本屋でバイトを始めたのがきっかけですね。お金が貯まったらすぐに辞めるつもりだったんですけど、始めたら意外とおもしろくて、はまってしまったんです(笑)」
 
 

 
音楽と本、まったく違う世界ですけど、なにか共通点があったんですかね。
 
「そのときは気づかなかったんですけど、本を揃えていく作業は、音楽と似ているんですよね。」

どういうところがでしょうか?
 
「いろいろな要素を集めて一つの物を作るっていうところですね。それが、本か音かの違いだけで。ドラムをやっていたから、バラバラな物をひとつにまとめるのが好きなのかもしれないですね。だから、本屋もバンドの延長って感覚なんです」
 

 
なるほど。そこから自分の店を持とうと思ったきっかけは何だったんでしょう。
 
 

「本屋のおもしろさに気がついたときには、もう自分の店を作りたいなって思っていましたね。今度は『本』で自分の世界を作りたいと思ったんです。そのお店には4、5年いて、31歳のときに自分の店をオープンしました。一人だったし、『だめなときは閉めればいい、死ぬわけじゃないし』っていう感覚でしたね」

どのようなお店にしようとか、イメージはあったんですか?
 

 
「珍しい専門書が並んでいるというよりは、『街の古本屋さん』にしたかったんです。いろんなものをごちゃごちゃ置いて、宝探しする感覚を味わえるようなお店ですね」
 
 

 
良い意味でゴチャゴチャしていますよね。妙に居心地が良い(笑)。本はどういう基準で集めているんですか?
 
「専門店じゃないから、『周辺のもの』を売っていきたいと思っています」
 
 
『周辺のもの』とは?
        
「例えば、専門店の棚に置いてある値段が5万、10万の本の周辺にある1000円2000円の本たち。 本流からズレてしまった本だったり、ただとっかかりの本だったり。でも、メインストリームからは注目されないけど買いやすかったり、ちゃんと読むと実はおもしろいっていう本たちですね。そんな本を、ゴチャゴチャの中にこっそり置いてるんです」
 
 

 
本を選ぶ視点がおもしろいですね。それに、お店の雰囲気も独特ですよね。

 
「『本屋で本を買う』っていうのは、わざわざ来てもらうわけですからその店の空気や流れてる音楽とかの雰囲気がとても重要だと思うんですよ。来てもらっているその人の時間も引き受けるわけだから、そこは意識してやってます。文章を読むだけだったら、今はネットでも電子書籍でもいいわけじゃないですか。でも、そこから何かを感じたり記憶したりするのは、本の重みやページをめくるときの紙の匂いとか、どこで読んだかとかも込みだと思います」
 
 
それでは、二見さんのお店で「宝探し」をしていきます!
 

 
1st DIG  『HELL’S ANGELS』/長濱 治
 
一冊目は写真集ですね。
「これは、長濱さんがアメリカの『HELL’S ANGELS』を撮った写真集です。メインには出てこないアウトサイダーの中に、ここまで入り込んで撮っているっていうのがすごい。昔から欲しくて、最近やっと手に入れたんですよ。この写真集はただただ、カッコいいの一言に尽きますね」
 
 

 
2nd DIG 『三楽』/ライトパブリシティ 
 
昭和30年代当時、ライトパブリシティっていう広告会社にいたイラストレーターの伊坂芳太良とコピーライターの土屋耕一による「三楽酒造」の広告をあつめた本です。サントリーの『洋酒天国』とかは有名だけど、これはマニアックでいいんですよね。伊坂の一般的に知られている彼の画風とは違っていて、絵とか文章とかすごいおもしろいんですけど、あまり知られていないんですよね」
 

 
 

 
3rd DIG『亀の島』/ゲイリー・スナイダー ナナオ サカキ訳
 
ビージェネレーションの詩人で、日本とも関わりの深かったゲイリー・スナイダーですね。

 
「彼は自然主義者なんですけど、ぼく自身はそういう思想とか哲学とかって大きすぎて正直よく分からないんです。だけど、原発のことがあって改めてこの本を読んでみると、彼の言う人間と自然の関係とか、過去の人たちが大事にしてきたアニミズムのこととかが新鮮に感じるんです。人間の営みや未来を思いながら原発問題を考えていると、彼の言葉は今とても参考になるなって思いますね。もう一冊は、BUM・ACADEMYの第一回フェスティバルの記念としてサカキナナオさんがまとめた原稿をもとに出された本だと思います。タイトルは何語だかよくわからなくて(笑)、たぶんプシュケージャーナル第2号ではないかと」
 
 

 
今回、お邪魔した『流浪堂』は、ありとあらやゆる本が雑多に置いてあるのだが、不思議とその中に軸があり、ブレた印象を与えない。「メインからこぼれ落ちるもの」に価値を見出す、二見さんの考えがその軸なのかもしれない。本=勉強、難しいもの、というイメージがある人におすすめの場所だ。本に対する考えが、必ず、少し変わる。

取材・写真・文/宮本 賢


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