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第28回 古本酒場コクテイル 狩野 俊さん | ブログ | マガジンワールド

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かりの・すぐる|古本酒場『コクテイル』店主、高円寺北中通り商栄会副会長。神保町にて書店員を経験した後、1997年に国立市に古書店『コクテイル』をオープン。2000年に古本酒場として高円寺に移転。東京都杉並区高円寺北3-8-13 03-3310-8130 18:00〜LO23:30 火・第2・4月休

「本が読みたいなあ」って思うときほど、面白い本が見つからなかったりするから不思議だよね。だったらいっそ街に出て、本選びのプロにおすすめを聞いてしまおう!  
このブログでは、本が大好きな人たちのお店に行き、本を読むこと、探すこと(=Diggin’ Books)の魅力を教えてもらいます。今月も張り切って行ってきます! 

今回お邪魔したのは高円寺駅北口から徒歩5分、北中通りに店をかまえる古本酒場の『コクテイル』。“古本酒場” と名乗る珍しいこちらは、書店としての利用はもちろん、料理と酒も一緒に楽しめるお店。

本を探しながら酒を飲むだなんて、大人の気配がする! というわけで、大人特集を作りながらここ数ヶ月大人について考えてきた編集部は、店主の狩野 俊さんを訪ねることに。
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お店は大正時代に建てられた一軒家を利用。表はリノベーションされているものの、中は当時のまま。ギシギシと音をたてる木の階段や、入り口にそびえる、2階まで吹き抜けの大きな本棚が秘密基地のよう。 

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置いてある本は、美術書、思想哲学、小説……など幅広く、すべて購入可能。あえてジャンルを分けずに配置されていて、座った席によって出合う作品も変わるから、ワクワクする。
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上の写真は2階の席。ぎゅうぎゅうに詰まった本と古道具で、おじいちゃんの家の書斎に来たような気分。1階と2階合わせて売られている本は約5000冊! 

ここの名物はなんといっても、作家や作品にちなんで創作された“文士料理”。狩野さんの気分によって、いろんな作品の100以上ものレパートリーの中から、メニューが日替わりで決まる。

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これはこの日のメニュー。書かれてはいないけど、武田百合子の『富士日記』に登場するコンビーフのオムレツに、浦沢直樹の『マスターキートン』に出てくる鶏唐揚げなど、すべてのメニューにちゃんとストーリーが。オムレツは色んな小説に登場するらしく、村上春樹の『海辺のカフカ』のキャベツオムレツにアレンジされる日もあるんだとか。ストーリーを聞いて注文するのが楽しい!

—どうして文士料理を出すようになったのですか?
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「自分が家でつまみを作るときに、本に出て来る料理を参考にしたのがはじまりでした。もともと古本酒場を名乗る前からコクテイル(カクテル)という名前で、本だけでなく、色んなものが混じり合ったカクテルのような場所を作りたいと思っていたんです。それもあって、趣味で作った料理を店でも出してみることにしました」

—メニュー考案のために本を読むこともありますか?

「料理名を探すために本を読んでいた時期もありました。例えば、太宰治や川端康成などの作品、とある地方を舞台にしたものには、郷土料理が出て来ます。でもあるとき、目的を持って調べもののように読むのはあざとくて嫌だなと思ったんです(笑)。それ以来そんなスケベな読み方はしていません」

狩野さんがこの日用意してくださった食材は「シジミ」。これは伊坂幸太郎の『グラスホッパー』に元ネタが。
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「物語の中で“蝉”という名の殺し屋が、ペットのように飼っていたシジミの砂抜きを回想するシーンがあるんです。やがては食べるんですけど、どんな料理にしたのかは描かれていないのですが、すごく印象に残っていました。今日は私なりに想像してシンプルなすまし汁にしてみようと思います。質素な生活をしている人物なので、きっと手の込んだ料理は作らないと思うんです」

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そうして完成したのがこちら。本当はショウガやネギを合わせると旨味が増すとのことだけど、“蝉”の性格を考え、味付けはあえて醤油のみ。シジミの出汁がしっかり出ていた! (350円)

そしてもう一品、看板メニューでもある檀一雄さんの『檀流クッキング』に登場する「大正コロッケ」250円。
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おからに桜えびなどを加えたタネを素揚した和風コロッケ。あっさりしていて、大人の味。ビールにも日本酒にもぴったり! でも、すべてのメニューが忠実な再現というわけではないんだとか。
「さっきのしじみ汁のように、僕の想像で補完して作っているものもありますよ。というのも、嵐山光太郎さんが『文人悪食』の中で檀一雄自身が、暖流クッキングに出て来た料理をアレンジしている描写があって、それを読んだときに完全再現する必要はなくて、自分なりの文士料理を作ったらいいんだと思ったんです」

物語のあらすじと一緒に料理の説明をしてくれる狩野さん。それを肴に酒を飲むのはすごく粋だ。
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「ぜひお客さんにも作品に登場する料理を作ってみてほしいですね。料理じゃなくてもいいし、とにかく主体性を持って本を楽しんで欲しいです。本はただ読むだけではもったいない。何か行動するためのきっかけとして活用したり、作者の言っていることを自分に置き換えて考えてみたりすることが大切だと思うんです」

というわけで今回は今月号の特集にちなみ、“大人”を感じる本をDIGっていきます。自分なりに内容を吸収するためにどんな楽しみ方をしたらいいんだろう……!

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1st DIG『対話集』小林秀雄
「小林秀雄が三島由紀夫など、12人の文化人と対談したものを収録した1冊。テーマは文学や生き方など多岐にわたりますが、お互い何を言われてもひるまずに会話を続けて行くところが大人だなと感じます。大人の会話ってときに痛さをともなうものだということを気づかせてくれるとともに、会話っていいなと思わせてくれる本です」
大人たちの対話による静かなる喧嘩!? から大人の強さを学びたい。

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2nd DIG『宮本武蔵五輪書詳解』宮本武蔵
「晩年の宮本武蔵が自ら、戦い方と心得について解説した1冊です。戦いの描写があまりにリアルで気迫に満ちていて、本当に刀を交えた人じゃないと書けないものだと思います。武蔵のストイックな姿勢には、大人になっても学ぶことがたくさんある気がします」

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3rd DIG『白州正子自伝』白州正子
「自分の本棚に置く本は最小限にしているのですが、この本はいつでも読み返せるように私も手元に置いているおすすめの1冊です。随筆家であった白州正子の自伝ですが、これを書いたのは晩年。彼女が長い人生を送った上で語る過去って、もう格好を付ける必要も無いし、自我を世間に訴える必要もない。その裸のような、枯れた文章が、大人の奥深さを感じます」
自分の過去を冷静に振り返れる大人ってかっこいい。

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文字通り、料理で本の世界を“味わえる”『コクテイル』に行けば、普通の書店では体験できない本との出会いがきっとある!

現在、本を使った「まちおこし」の活動もしている狩野さん。
今年から「本が育てる街・高円寺」を始めました。
みんなから譲られた古本の収益で、高円寺の至ところに本棚を設置し、
本を交換出来る「ブックシェア」をするプロジェクトを開始!
高円寺の街中がまるで図書館のようになる、ユニークな動きをサポートしよう!
問い合わせはこちらから。
http://honmachiproject.tumblr.com/ 

text:飯野僚子

http://blog.magazineworld.jp/popeyeblog/28557/


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