profile:すずき・けんじ|テレビの音声、グラフィックデザインの仕事を経て、2011年8月に『リズム&ブックス』をオープン。◯東京都渋谷区富ヶ谷1-9-15 星ビル1階 ☎03•6407•0788 12:00〜22:00、土日祝〜20:00
「本が読みたいなあ」って思うときほど、面白い本が見つからなかったりするから不思議だよね。だったらいっそ街に出て、本選びのプロにおすすめを聞いてしまおう!
このブログでは、本が大好きな人たちのお店に行き、本を読むこと、探すこと(=Diggin’ Books)の魅力を教えてもらいます。今月も張り切って行ってきます!
今回お邪魔したのは千代田線代々木公園駅のほど近くにある「リズム&ブックス」。ここは、店主の鈴木さんが、3年前にオープンしたお店。もともと古本屋とレコード屋を回るのが好きだったそうで、古書に加えてレコードやCDも取り扱っています。
―どういったきっかけでこのお店をはじめたんですか?
「会社に務めていた頃からいつか自分の店を持ちたいな、と考えていたんです。テレビの音声とグラフィックデザイナーを5年ずつ経験したあとに、意を決して退職しました。でも、最初から自分のお店を持つというのは難しいと思い、まずは物の売り方を学ぶために雑貨と新刊書を扱う店で働く事にしたんです。妻ともその職場で出会いました。店を開いた1番のきっかけは結婚かなあ。お互いに自分の店を持ちたいと思っていたので、2人で店を開くことに決めました」
―結婚を機に……! なんだか素敵です。お店づくりもお二人でされているんですか?
「入り口にキノコの本と雑貨を集めたコーナーがあるんですが、それは妻の趣味ですね(笑)。妻いわく、食べるのはもちろん、キノコは繁殖の仕方が独特で、その生態も魅力なんだそうです。本は高価なものが多いので、いらっしゃるお客さんも“本気”な方が多いです」
店内には本だけでなく、缶バッジや置物まで。本屋さんに“キノコ”という独立したジャンルがあるのは珍しい。
―キノコの本は外国のものが多いですね。
「チェコやハンガリー、ドイツなど、ヨーロッパで買い付けてきました。特に山に囲まれているチェコではキノコが食卓に欠かせないんです。1家に1冊はキノコ狩りの参考にする本が置いてあるとか。そのため現地の古書店にもキノコの本が多いんです。『キノコの本を探してるんだけど……』と相談するとあっというまに段ボール2、3箱集まります。いつも他のヨーロッパの国も回りますが、結局日本に買って帰る本のほとんどはチェコのものですね」
―でも、なかなかキノコに馴染みがない人はどうやって楽しんだらいいんでしょう?
「チェコは印刷大国なので、デザイン性も高くて、目で見て楽しめる本が多いんです。色使いもきれいですね。本の物量も多いので、色々なキノコの本があるんですよ」
たしかに、日本ではあまりないような、原色を大胆に使った本が多い気がする。キノコってもともと不思議なイメージだけど、それに自由なデザインが加わって、なんだか眺めてるだけで楽しいかも。
それにしてもチェコって印刷大国だったんですね……。初耳だったけど、チェコは日本の本にも関わりがあるそうで、珍しいものを見せてくれました。
「昔は、日本にもチェコで印刷した本が結構あったりしたんです。お店にも日本語で楽しめるチェコの絵本がありますよ!」
本当だ! ”印刷 チェコスロバキア”って書いてありますね。
「この『白雪姫』の絵本は、絵はそのままに、いろんな言語のバージョンが存在していますよ。チェコで日本語版を見かけたこともあります。飛び出す仕掛けも、手が込んでいて可愛いです」
この本なんか、30、40年以上も前の絵本なのに、発色がきれいで全然古くさく見えない。最近の本だと言われても信じてしまいそうです。言葉はわからなくても、鈴木さんの言う通り、絵やデザインにもいい要素が詰まっているから、眺めているだけで楽しめます。
でも、ここまで読んで「女の子のほうが楽しめるお店なのでは!?」と思っちゃった人、いるんじゃないでしょうか。実はここ、キノコだけじゃないんです。
―お店を見ていて思ったんですが、ちょっとセクシーな本が多いですよね。
「古本屋であればこういった本は必ず置いていると思うんですが、個人的にも昭和は、ちょっとテンションがおかしい本がたくさん出版されていて好きなんです」
―“ちょっとテンションがおかしい”とはどういうことでしょうか?(笑)
「戦前は映画が外国から輸入される前だったので、『性』について言語化されたものが少なかったんです。そのせいか、今読んでみると『そんなことまで真面目に説明するの?』という内容ですごく面白いです。戦後になると表現も開放的になってきて、バブル期にはそのピークを迎えます。今の時代のいわゆるエロ本とは違って、『昭和エロ』は読み物としても魅力的ですね」
写真の『べっどるうむ・てくにっく』というタイトルも独特な仮名遣い。当時は大真面目だったんだろうけど、今読むとその真面目さがかえってシュールというか、狂気的というか……とにかくツッコミどころが多くて読んでいて楽しい。
その“テンションのおかしさ”はエロ以外にも現れていて……。
例えば、子どもに向けた『なぜなに学習図鑑』。これは70年代のもので、小松崎茂さんのイラストの迫力がすごい。本当に勉強できるかは謎だけど、想像力は育まれそう。それにしても、すごい表紙ですね〜。
そんなおかしな本に紛れて「ポパイ」のガールフレンド、『オリーブ』がありました! 現在200冊以上の在庫があるそう。鈴木さんいわく、雑誌は当時の広告に注目するのも面白いんだとか。パラパラ見てみたら、当時のテンションを感じられるかもね。
というわけで、今月もディグしていきます!
1st Dig 『夫婦生活』
「青木信光さんの『医学カード』は昭和エロを代表する存在で、このシリーズにはミリオンセラーを記録したものもあるんです。男子の想像をかき立てるような、悩ましいポーズをとった女性の姿を紹介した本なんですが、なぜか立体写真メガネがついていて3Dで楽しめるんです。本のデザインが妙に真面目で、そこまでいやらしさを感じないのがまたいいですね」
昭和エロの伝説! 見てくださいこの色っぽい顔、レオタード姿、おかしなポーズ。3つが合わさって、唯一無二の世界観が完成しています。ちなみにこの3Dメガネを試してみたら、なぜか女性の身体よりも、隣に置かれた植木鉢が浮き出てきました。求めようとしていたエロさがいい意味で空回して、棚にあったら逆にお洒落かも!?
2nd DIG『Dream of life/森永博志』
「創刊当時の『POPEYE』でも活躍した編集者 森永博志さん監修の本です。これはDISCO KYOTOがオープンするときのプロモーション用に作られたもの。詳細の情報は調べてもなかなか出てこない、珍しい1冊ですね。表紙が屏風のようになっていて、挿絵も大胆です。こういう自由度の高いデザインも昭和の本の特徴。大きな挿絵に綴られた、森永さんをはじめとする編集者・作家さんの文章にも注目です」
3rd DIG タモリの本
「昭和はタモリさんの本も多いですね。とくに『笑っていいとも3巻』は「テレフォンショッキング」で細野晴臣さんが大瀧詠一さんに電話をかけたけど断られる、というエピソードがあって一押しの1冊です」
平成生まれの人には『笑っていいとも』の人というイメージが強いけど、タモリさんも昭和の文化を代表する1人。最近もタモリさんを特集した雑誌を見かけたし、シティボーイの先輩について、ちょっと時代をさかのぼって知ろうとしてみるのも楽しいかもね!
本屋さんって入り口に設けられたコーナーについつい目が行ってしまいがちだけど、隅から隅まで、店主が選りすぐった本が詰まっているから見落としたくない。『リズム&ブックス』も例にもれずそうだった。
古そうだけど、色鮮やかな本を見つけたら「もしかしてチェコで刷ったのかも……」と手に取ってみるのもいい。どこの古本屋さんにもある昭和の本も、“テンションのおかしさ”に注目してみると、また違った楽しさが見つけられそう。
それにしても、昭和エロ、面白い!
取材・文・写真/飯野僚子