profile:かわた・まさかず。出版社を退社後、世界各国旅に出る。その後書店員を経て2007年より旅の本屋「のまど」の店主になる。次に行きたいのはアフリカ。◯東京都杉並区西荻北3-12-10 司ビル1F ☎03-5310-2627 12:00〜22:00 水休
かの寺山修司は「書を捨てよ、町に出よう」と若者に呼びかけました。
たしかに実際に外に出て経験することは刺激的。けど、町に出てみると本屋がたくさんあって、結局また本を読んじゃうよね? それくらい今の東京にはわくわくする本屋さんが溢れているんです。町の本屋は店主のこだわりがつまった、まさに一つの世界。お店に入れば、その主人独自の視点で集められた本が並んでて、自分の知らない世界に連れていってもらえる!
このブログは、本が大好きな人たちのお店に行き、本を読むこと、探すこと(=Diggin’ Books)の魅力を教えてもらいます。今こそ書を探しに町に出よう!
世界各地には旅行書を専門にした「旅の本屋」があるのを知っていますか?
旅に出る前の準備に、そして帰ってきた後、思い出に浸るために多くの人が気軽に立ち寄れる場所。今回お邪魔した西荻窪にある『のまど』は、日本で唯一と言っていい旅の本屋なんです。
店主を務めるのは沢木耕太郎氏の『深夜特急』シリーズを読んで、実際に旅に夢中になった川田さん。なんとこれまでに行った国は50カ国以上! 今では「旅のバイブル」みたいな作品だけど、こうやって読んで実際に旅に出る人はなかなかいないよね。
―川田さんは今までどんな旅をしてきたんですか?
「これまでに50カ国くらい行きました。小さいときから地図を見るのが好きで、大学でも地理を学んでいたくらい、『知らない場所』に興味があるんです。思いつくままに動いて、少し危険な思いをしてしまったこともあります。中国の雲南省に行ったときに、隣に接するミャンマーに行きたいなあと思って自転車で行きました。国境に人がいなくて、ビザがないのに入れてしまったんです。数時間ふらふらしたけど心細くて、日が暮れる前に帰りました(笑)」
店を持った今でも旅を続ける川田さん。本屋さんだけど、お客さんから旅について相談を受けることが多いのにも納得です。
―それは危険ですね(笑)。行ってよかった、忘れられない国はありますか?
「最近旧ユーゴスラビアの国を周ったんですが、中でもボスニアとコソボがよかったです。紛争だとか治安の悪いイメージを持つ人も多いと思うし、私も行くまではそうでした。でも行ってみると、今まで行った国の中で1番親切にしてくれる人が多かったんです。あとは、初めて行った海外がアメリカだったんですが、それが旅の本屋との出合いです。日本にはこういう旅への想いにふける場所がないから面白いと思ったんです」
―今店を出しているのも、旅をしていたことがきっかけなんですね。
「そうですね。一度は出版社に勤めたんですが、程なくしてやめてしまって……バイトをしては旅に出る生活を送っていました。そのときにヨーロッパの各地でまた旅の本屋を見かけて、そのときに日本でこういう本屋をやりたいと思うようになりました」
―本はどんなラインナップなんですか?
「新刊と古本分けず、地域ごとや作家別に置いています。また、ガイドブックや地図、旅行記だけでなく映画や音楽、料理、文学など、一見旅と関係ない本もあります。自分が旧ユーゴスラビアの国に行ったのも、エミール・クストリッツァ監督の映画『アンダーグラウンド』を知って行きたいと思ったから。何がきっかけで旅に出たいと感じるかはわかりません。違うジャンルのものでもどこかで旅とつながっているんです」
先に国を選んで計画を立てるのも楽しいけど、興味のあることに関係が深い国に行った方が、その旅で得られる感動が大きくなるのかも。座って本を読むことと旅に出ることって真逆のことだと思ってたけど、実は本は旅に欠かせない存在だった!
―旅をしている最中の本の楽しみ方もありますか?
「旅の途中は移動時間が長いので、普段なかなか読めない長編のものや難しいものを読むといいかもしれません。あとは、旅先で出会った人と本を交換したり、泊まっていたゲストハウスに自分の本を置いて代わりに前の人が置いて行った本を読むのも面白いですよ。以前シルクロードで日本人のバックパッカーに出会って、お互い読み終わった本を交換したんです。彼がくれたのは立花隆さんの『宇宙からの帰還』でした。正直自分では買わない本だと思ったんですが、これがすごく面白かったんです。こうやって旅先で面白い本との出会いもあるかもしれません」
本って旅では荷物になるけど、そこは我慢。お気に入りの本を持って行くのもいいし、まだ見ぬ旅先でできる友達を思いながら持って行く本を選ぶのも楽しい。
それでは今月も張り切ってDIGします!
1st DIG『TAMIOO日記/TAMIOO』
「ウェブデザイナーのTAMIOOさんが自費出版している、小さな手書きの文字とイラスト、写真のコラージュで制作された1冊です。インド、中南米、東欧、エベレストなど……色んな場所で見た建築のイラストは必見です。個人の日記を読むのって面白いですよね。ウェブデザインの仕事をしながら旅をしていて、印刷も旅先でしているんです」
2rd DIG『野宿野郎/野宿野郎』
「タイトルの通り、ひたすら野宿をすすめる雑誌です。実は意外にも、編集長が女性なんです! 今ではちょっとした有名人になっているみたいです」
“人生をより低迷させる旅コミ誌” というサブタイトルが気になります。
3rd DIG 『バウルを探して/川内有緒』
「著者の川内さんが実際にバングラデシュにいる、幻の吟遊詩人バウルの姿を探して旅をしたときの記録です。この作品は今年新田次郎文学賞を受賞しました。ロードムービーを読んでいるような気分で楽しめますよ!」
本屋でできる旅の準備はガイドブックを買って、行く土地について調べることだけじゃない。
旅の先輩の旅行記を読んで自分なりの旅のスタイルを持つのも、旅先で出会った人におすすめしたい本を選ぶのも旅を最高に楽しむために必要な準備。
それに旅慣れた店主の川田さんも相談に乗ってくれるから安心だ。
帰ってきた後も、旅先で出合った本を読んで、思いを馳せれば完璧!
旅支度は本屋からはじめよう。
HPでは店主の川田さんが旅の情報を教えてくれるよ
http://www.nomad-books.co.jp/
取材/文/写真/飯野僚子 編集/宮本賢