profile:ながさわ ゆたか。今年で8年目を迎える書店&レンタルビデオ屋「Elephantastic」店長
◯東京都江東区清澄3-3-28 ☎03-5646-1168 平日、土曜12:00-23:00 日曜 12:00-20:00 定休日月曜
「本屋さんって、意外と多い」。この取材を始めて気づかされました。
住んでいる街に入ったことのない本屋がありませんか?
まずは入ってみて、できたら本屋の店主に好きな本を聞いてみると、思いもよらないおもしろい話が聞けるんです。
そこには、本屋を始めるきっかけになった本、人生を変えた本など、その本屋さんにとって大事な本が必ず存在する。
当たり前かもしれないけど、“本屋の主人の本の話”はおもしろい。
このブログでは、そんな本フリークな人たちのお店に行き、本を読むこと、探すこと(=Diggin’ Books)の魅力を教えてもらいます。
「映画と本」の関係は切っても切れない。原作を読んでから、映画を観るのも、映画を観てから原作を読むのも楽しい。でも、たまには原作じゃなくて、その時の気持ちにぴったりの本や同じテーマを扱った本を読んでみよう。
今回は清澄白河にある、本屋&レンタルビデオ屋「Elephantastic」を取材。
清澄白河に行ったことありますか? 現代美術館や小さなギャラリーがあり、毎日いろんな個展が開かれている。さらに清澄庭園や木場公園などの自然溢れる公園もあるし、居心地のいいカフェもたくさんある。東京の東側に位置している東京の“ブルックリン”と言っても過言ではない場所。
「Elephantastic」はそんな街にあります。
入って左側を見るとレンタルビデオ屋さん、右側を向くと本屋さん。真ん中のテーブルにはCDが並んでいます。
こじんまりとした店内には、都心の書店やレンタルビデオ屋さんとはひと味違ったカジュアルな雰囲気が漂っています。
オープンした時から「レンタルビデオ」と「書店」というスタイルだったんですか?
「もともとはレンタルビデオ屋さんだったんです。『Elephantastic』は8年前にオープンしたのですが、本を置き始めたのは1年ちょっと前からなんです。お店を出す前はレンタルビデオの会社でサラリーマンをしていたので、本か映画かと言われれば映画畑でしたね。昔から人に接するのが好きだったので、自分の好きな“映画”と“人”に同時に触れたいなと思ったんです」
本を置き始めたきっかけはなんですか?
「うちの常連さんは、映画や舞台の関係者、役者さんたちがすごく多くて、その常連さんたちが、たくさん面白い本を紹介してくれたんです。最初は紹介してもらっているだけだったんですけど、途中から『読み終わったなら、その本売ってよ!』と言いはじめて、そうするうちに、徐々に本が集まってきたんです(笑)」
本と映画はどんな物が多いんですか?
「本に関しては、東京コーナーがイチオシです。僕は地方出身なので、東京に関して書かれた本をたくさん読んでいました。映画は、大型店ではあまりスポットがあたらないものが多いですね。例えばDVDで復刻がされていないVHSや、ソフトスルーと呼ばれる、映画館で上映されなかった作品なども扱っています」
今日来ているお客さんも常連さんですか?
「そうですね。二人とも家が遠いのに、よく遊びに来てますよ(笑)。今日来ている二人は役者志望の学生とフォトグラファーです。何かを表現することが好きな人が多いので、そういう人たちがこの店をきっかけに繋がっていってくれるのがすごく嬉しいですね。僕を経由しないで、お客さん同士が気付いたらどんどん仲良くなって、好きな映画や本の話をしているところを見ると感慨深いものがあります」
個人のレンタルビデオ屋で、しかも本屋もやっているところは珍しいですよね。
「大型の書店さんでも両方やっているところはあると思いますが、うちの店の一番面白いところは、小さい所だと思うんです。当たり前ですけどレンタルビデオ屋は、借りたら返しにこなきゃいけないじゃないですか。だから、毎回、自分がオススメした本や映画の感想を聞けるのが面白いんです。最後に会ってから一週間しか経っていなくても、借りていった映画や、買ってくれた本の話で盛り上がれる。そうすることで、お客さん一人一人の好みが分かって、その人に合ったオススメの仕方をできるのが醍醐味ですね。逆に言うと、話したくない人にとっては辛いかもしれない(笑)」
必ずまた会うことが約束されていたら無責任な接客はできないですね(笑)
「もちろんです(笑)。だから、お客さんとは色んな会話をします。『最近何か楽しいことありました?』とか話しかけてみたり、逆にお客さんからいろんな相談をされたり。役者志望のお客さんから『SF映画でワープするシーンが入ってるものを全部貸して下さい』なんて言われることもありましたね。あとは、お客さんの心情に合わせて、本や映画を選ぶことも多いです。例えば、すごく辛いことがあったとしたら、これ以上ないってくらい辛い映画をすすめてみたり。『KES』っていう映画があるんですけど、大切に飼っている鳥が兄に殺されてしまう話なんです。なんにも救いがない(笑)。この主人公の方が辛いぞ!って(笑)」
というわけで、今月は本と映画をセットでDIGっていきましょう!
1st DIG「ダージリン急行/Wes Anderson」「印度放浪/藤原新也」
「『ダージリン急行』はウェス・アンダーソンの映画の中でよく使われる、バラバラになった家族が一つにまとまっていくというストーリー展開なんです。この映画の中ではインドのお洒落な一面がすごく見えるんです。インドに行ったことがない人なら、誰もが『インドって想像以上にオシャレな国なんだ!』という印象を持つと思います。それに比べて、この『印度放浪』という本ではすごくリアルでドロドロした“臭い”のするインドを描いていて、両方の側面を知ることで、インドへの興味が増すと思いますよ」
2nd DIG「Alfie/Lewis Gilbert」「だめ恋愛脱出講座/倉田真由美 岩月謙司」
「この組み合わせは男性はもちろん女性にオススメです。『Alfie』は、チャラ男の本当にダメなやつが主人公なんです。たくさん女の子を困らせるんですけど、全然反省しないんですよ。でもそんな主人公がどこか憎めない。そういうだめな恋愛にハマらないためにという意を込めて、この一冊です(笑)。ちなみにこの『Alfie』は2004年にジュード・ロウ主演でリメイクされていますが、オリジナルの方がオススメです」
3rd DIG「最後の誘惑/Martin Scorsese」「宗教とは何か/テリー・イーグルトン」
「この映画はヨーロッパではキリストのイメージを損なうという理由で物議を醸した問題作なんです。キリストが最後死ぬときに『俺、もし神なんてやってなかったらどんな人生だったんだろう?』と回想する映画なんですよ(笑)。これを見ると、キリストも普通の人間だったのでは、と思わずにはいられません。見終わったときに、一体宗教って何? という気持ちになるので、この本を読んで真面目に考えてみるのも面白いですね」
番外編 常連さん佐伯美波さん’s DIG
「髪結いの亭主/Patrice Leconte」「豊満の美/エリック・ホイエル」
女優を目指す、常連さんの佐伯さんにも聞いてみました!
「この映画は主人公が豊満な身体の美容室の女性に恋をするんです。結末は言えませんが、ここまで一途に思える男性は素敵だと思いますね。あと、男の人がなぜ女性のカラダに興奮するのかを勉強したくなるので、そんなときは『豊満の美』がおすすめです。女性の身体を“下心”で見ている映画と“学術的に”語っている本を対比すると面白いです」
人に“オススメ”するのって意外と難しい。
簡潔にあらすじや見どころを伝えないといけないから、さっと流した本や映画はなかなか人にオススメできない。
「Elephantastic」へ行けば、長澤さんはもちろん、たくさんの常連さんが“オススメ”を教えてくれる。
何度も通って、ネットショッピングには真似できない自分だけの“オススメ”をしてもらうのはどう?
購入履歴からは判断できない、面白い本や映画との出逢いがきっとあるよ。
取材/文 廣瀬大士 写真/宮本賢