profile:なかむら しゅういち。フリーランスとして、個人商店や中小企業のデザイン、販売戦略を中心にお手伝いをする。今年9月に、長年住んでいた駒沢に『スノウショベリング』をオープン。◯東京都世田谷区深沢4-35-7-2F ☎03-6432-2576 13:00~20:00 水休
近頃、東京では代官山の蔦屋書店のように、トークショーやカフェサービスなども楽しめる本屋さんや、ZINEだけを取り扱ってる本屋さんなど、それぞれテーマを持ち、新しい本の楽しみ方を提案する本屋さんができています。このブログでは、かけだしライターの私、宮本 賢がそんな本屋さん訪れて取材。本を読むこと、探すこと(=Diggin’ Books)のおもしろさを教えてもらおうという企画です。インディペンデントでかっこいい本屋さんにいる「本のスペシャリスト」に会いに行ってきます。「Diggin’ Books」毎月更新!
駒沢公園のすぐ近く、深沢不動交差点そばという駅から離れた場所に今年9月、オープンした『SNOW SHOVELLING』にお邪魔してきました。
こういう聞き方も変ですが、なぜこの場所にお店をオープンなさったんですか?駅からも遠い結構遠いですよね。
「このあたりにずっと住んでいて、よく近所を散歩していたんですけど、そういえば本屋さんがないなと思ったんです。個人的な意見なんですけど、散歩中って頭の中が整理されて本を読みたくなるなと思っていて。ここらへんは散歩している人がすごく多いから、自分で作ってしまおうというのが始まりですね。要は、自分が欲しかったんです(笑)」
本屋さんを始める前はなにをしていたんですか?
「個人商店や中小企業のCI、VI(またはロゴという表現)名刺などの印刷部から看板、お店の内装などのデザインを中心にお手伝いをする仕事をしていました。デザイン以外のことも手伝うので、自分では“便利屋”って言っていましたけどね」
そこから、いきなり本屋さんに。
「そうですね。もともと本というより“本屋”さんという存在が好きだったんです。旅行に行ったら必ず本屋さんには行くようにしていますからね」
なるほど。店の真ん中にソファがあったり、コーヒーを勝手に飲んでよかったり、Wi-Fiがあったりと、いわゆる本屋さんっぽくはないですよね。
「ぼくが今まで見てきた本屋さんの好きな部分を集めていますからね。基本的にNYにあるインディペンデント系の本屋さんが好きなんでけど、コーヒーを勝手に(寄付制)飲めるのは、アムステルダムにある本屋さんの影響です。お店にいたら、かわいい店員さんがコーヒーを持って来てくれたことが異常に嬉しかったんです(笑)」
こういうお店が日本にあまりないからお聞きしたいんですけど、お客さんには、お店をどういうふうに使って欲しいという思いとかはありますか?
「ぼく自身が人と話すのが好きなので、お店に来ていただいたお客さんにはお声がけするんですけど、お客さん同士でも自然にコミュニケーションを取ってくれるといいなとは思いますね。本の話題はもちろん、世間話をしたり、近所のお店の話とかをしたりと。実は、何かの記事で読んだのですが、ニューヨークの男女が一番異性と出会いたい場所って本屋さんらしいんです。そういうのすごい素敵だなと思って、だからぼくはこのお店を“出会い系本屋”って言っているんですよ(笑)」
本はどうのようなジャンルが多いですか?
「60年代のカルチャーの本、本や本屋さんについての本、あとはこのお店の名前の由来にもなっている村上春樹関連の本が多いですね。あとは、ジャンル分けを工夫して、本を探すのは楽しくなるようにしています」
スノウショベリングは、村上春樹さんの『ダンス・ダンス・ダンス』の中に出てくる“文化的雪かき”っていう言葉から影響を受けているんですよね。
「この言葉は村上春樹さんがよく使うメタファーの中でも特に好きなんです。だからお店の名前にしました。引用すると『誰にも出来ることなんです。でも誰かがやらなくてはならない。で、僕がやってるんです』っていうことですね。そんな気持ちでやっています」
それでは、DIGしていきましょう。
1st DIG BOOK STORE/リン・ティルマン
「ぼくが、本屋さんを始めようと思ったきっかけになった本で、NYに90年代後半まで存在していた『Book&Co』という伝説的な本屋さんの話です。地元の人やポール・オースターなどの有名な作家などからも愛されていて、本を愛する人たちの想いが伝わってきます。このお店もこんなお店みたいになればいいなと思いますね」
2nd DIG グレープフルーツ・ジュース/オノ・ヨーコ
オノ・ヨーコの大ファンだという中村さん。
「これは彼女の代表作なんですけど、これを読むと普段使っていない脳みそをガンガン刺激されるのがいいんです。内容は写真とオノ・ヨーコの言葉。ほとんど命令口調なんですよ(笑)。自分がどんな事を考えているのか俯瞰視することが出来ますよ。どんな人でも楽しめるところがあると思います」
3rd DIG Living on The Earth/アリシア・ベイ=ローレル
「これは、1970年に出版されたヒッピーのバイブル的な本です。オーガニックな生活の指南書ですね。野菜の育て方や、洋服の作り型など、これさえ知っていれば生きていけるという知識がいっぱい詰まっているんです。人として当たり前に生きる智慧が詰まっている本かなと思います」
『スノウショベリング』は、コーヒーも飲めるし、フカフカのソファもあるしとにかく落ち着く場所だ。
でも、それだけでではない“なにか”がある。
その“なにか”を思い出そうとモヤモヤしながらもお店を出た。
ドアを閉めたとき、思い出したのは映画『ネバーエンディングストーリー』に出てくる本屋さん。主人公に本を渡し、不思議な世界へと誘ってしまうあの本屋さんだ。
中村さんとお店で話していると、今まで見たことのないような本を出してくれたり、聞いたこともないような話をしてくれる。
人との出会いだけではなく、不思議な世界とも出会える、いろんな意味での“出会い系”の本屋さんだった。
取材/写真/文/宮本 賢